平成23年度税制改正、とりわけ平成23年4月1日以後の相続から適用開始となる、相続税の改正について、お届けします。
◎相続税とは
まず、そもそも相続税とは、次の課税対象額が発生した場合に課税がされるものです。
┌─────────────────────────────┐
│ 課税される遺産総額 − 基礎控除額 = 課税対象額 │
└─────────────────────────────┘
つまり、基礎控除額よりも課税される遺産総額が大きければ相続税が課税されることになり、相続税の申告や納税の手続きが必要となります。このように、基礎控除額というものが設けられていることから、遺産を相続したすべての者が相続税の申告や納税の手続きをするわけではありません。実際、死亡者数に対する相続税の申告対象者数の割合は改正前であれば4%程度でした。したがって、大多数の方は相続税の申告対象とはなっていなかったのです。
少し、用語について補足しますと、まず「課税される遺産総額」とは、遺産相続される財産から債務や葬式費用その他制度上相続税が課税されない遺産を除いたものに、相続時精算課税(生前贈与のうち相続時に課税を精算すると選択したもの)の適用を受けた贈与財産や相続開始前3年以内に贈与があった財産を足したものをいいます。また、「基礎控除額」とは、定額控除に法定相続人(※)の数に応じて計算した金額を上乗せした金額いいます。 (※)法定相続人とは、民法上規定されている相続人となるべき人を指します。(民法886以降)
◎改正の内容
相続税についてどのような改正がなされるのか、主な改正項目は次の通りです。
1.基礎控除額の見直し
相続税の基礎控除額が次のように改正されます。
┌───┬───────────────────────────┐
│改正前│ 5,000万円(定額控除) + 1,000万円×法定相続人の数 │
├───┼───────────────────────────┤
│改正後│ 3,000万円(定額控除) + 600万円×法定相続人の数 │
└───┴───────────────────────────┘
たとえば、法定相続人が配偶者、子(2人)の場合、法定相続人の数は3となり、改正前は8,000万円の基礎控除額ですが、改正後は4,800万円となります。
2.制度上課税されない死亡保険金に係る非課税枠の見直し
相続とみなされる死亡保険金について、一定の非課税枠が設けられています。その非課税枠が次のように改正されます。
┌───┬───────────────────────────┐
│改正前│ 500万円×法定相続人の数 │
├───┼───────────────────────────┤
│改正後│ 500万円×法定相続人の数(未成年者、障害者又は相続開 │
│ │ 始直前に被相続人と生計を一にしていた者に限る) │
└───┴───────────────────────────┘
たとえば、法定相続人が配偶者、子(2人・いずれも成人)の場合で、配偶者のみ被相続人と生計を一にしていた場合には、死亡保険金のうち改正前は1,500万円が非課税となりますが、改正後は500万円が非課税となります。
◎改正による影響
それでは、上記2点の改正項目について、改正前と改正後ではどのように変わるのか、改正による影響を、次の設例をもとに、一緒に考えてみましょう。
設例:
[法定相続人]妻、子2人(いずれも成人)…妻のみ被相続人と同居で生計一
[遺産内容]
預金1,000万円
不動産5,000万円(居住用土地4,000万円・建物1,000万円)
保険金3,000万円(死亡保険金であり、相続税の非課税対象となるもの)
改正前;
基礎控除額 5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円
保険金の非課税限度額 500万円×3人=1,500万円
課税される遺産総額 1,000万円+5,000万円+
(3,000万円−1,500万円)=7,500万円
課税対象額 7,500万円<8,000万円
∴基礎控除額の方が大きいため、相続税の申告・納税義務なし
改正後;
基礎控除額 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
保険金の非課税限度額 500万円×1人=500万円
課税される遺産総額 1,000万円+5,000万円+
(3,000万円−500万円)=8,500万円
課税対象額 8,500万円−4,800万円=3,700万円
∴課税対象額が発生=申告義務あり
もし不動産が特定居住用であり、かつ、妻が不動産を100%相続する場合、小規模宅地等の特例が適用できるため、居住用土地は8割評価が減り、2割課税となります。この評価減を最大限受けられると仮定すると改正後は、課税される遺産総額は5,300万円(1,000万円+(5,000万円−4,000万円×80%)+(3,000万円−500万円))となり、課税対象額は500万円(5,300万円−4,800万円)となります。細かい話は抜きにして、居住用宅地に関しては、誰が相続するかによって上記のような課税対象額に差が生じる点にも注意しなければなりません。
◎その他の相続税改正
相続税の改正では、次の税率改正がある他、未成年者や障害者の控除について若干上乗せされるなどの改正もあります。
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│ 改正前 │ 改正後 │
├──────────┬────┼───────────┬────┤
│ 課税対象額 │ 税率 │ 課税対象額 │ 税率 │
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│1,000万円以下の金額 │ 10% │1,000万円以下の金額 │ 10% │
├──────────┼────┼───────────┼────┤
│3,000万円以下の金額 │ 15% │3,000万円以下の金額 │ 15% │
├──────────┼────┼───────────┼────┤
│5,000万円以下の金額 │ 20% │5,000万円以下の金額 │ 20% │
├──────────┼────┼───────────┼────┤
│1億円以下の金額 │ 30% │1億円以下の金額 │ 30% │
├──────────┼────┼───────────┼────┤
│3億円以下の金額 │ 40% │2億円以下の金額 │ 40% │
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│ − │3億円以下の金額 │ 45% │
├──────────┬────┼───────────┼────┤
│3億円超の金額 │ 50% │6億円以下の金額 │ 50% │
├──────────┴────┼───────────┼────┤
│ − │6億円超の金額 │ 55% │
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まずは改正後の基礎控除額の計算をするところからはじめ、この機会に改めて財産の見直しを検討するとよいでしょう。